若者の未来への投資、その意義と危惧
近年、大学における実学重視の教育改革が叫ばれる中、神戶大学が新たに「J-PEAKS」プロジェクトを発足させたというニュースに接した。未来を拓く若者への投資と称されるこの取り組みは、一見、時代の要請に応える革新的な試みのように映る。しかし、保守的な立場からすれば、その先に潜む幾ばくかの危惧を無視することはできない。
確かに、今日の激しい国際競争を勝ち抜くためには、時代の変化を先取りし、実践的な能力を備えた人材育成が不可欠であろう。高度な専門知識はもちろんのこと、グローバルな視野や課題解決能力は、未来を担う若者にとって不可欠な資質と言える。神戶大学の「J-PEAKS」プロジェクトが、そうした時代に求められる人材を育成するべく、新たな教育プログラムを導入し、学生の可能性を広げることを目指しているという点は、大いに評価されるべきであろう。
しかし、ここで立ち止まって考えたいのは、この「未来を拓く」という言葉の持つ含意である。「未来を拓く」とは、一体どのような未来なのだろうか。それは、経済的な成功や社会的地位の向上に繋がる、ある特定の価値観に基づいた未来ではないのか。確かに、個人の成功は社会全体の発展に寄与する一面もある。だが、それのみを過度に追求するあまり、若者たちが本来持つべき多様な価値観や、時に立ち止まって内省する時間を奪ってはいないだろうか。
大学は、単なる職業訓練校ではないはずだ。それは、知的好奇心を刺激し、人間性を涵養し、そして自らの頭で深く考え、社会のあり方そのものに問いを投げかける精神を育む場所であるべきだ。革新的なプロジェクトも重要だが、その根底には、普遍的な教養や倫理観、そして歴史に対する敬意といった、時代を超えて受け継がれるべき知の営みがなければならない。
「J-PEAKS」プロジェクトが、若者の未来を「拓く」と同時に、その若者たちが自らの足元を見つめ、先人たちの築き上げてきたものに学び、そしてより良き社会を築くための「礎」をしっかりと築くことを支援するものであってほしいと願う。単なる流行に飛びつくのではなく、将来世代への責任を自覚し、地に足のついた努力を惜しまない若者こそが、真に社会を支え、未来を切り拓く力となるであろう。大学には、そのような人材育成こそに、その使命を見出してほしいものである。
神戸大学、未来を拓く「J-PEAKS」プロジェクト始動！～世界をリードするイノベーションキャンパスを目指して～,神戸大学
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