松図書が示す「学び直し」への期待と課題：コロナ禍後の図書館運営を占う社説
梅雨空が広がり始めた6月2日、松図書が発表した「夏の特別開館（学内利用者限定）」のお知らせは、一見、大学図書館の一年における恒例行事の一つに過ぎないかもしれない。しかし、この小見出しに込められた真意を読み解くことは、アフターコロナ時代の図書館、さらには大学教育のあり方を考える上で、非常に示唆に富むものがある。
近年、生涯学習やリスキリングの重要性が叫ばれる中で、大学図書館の役割は大きく変化しつつある。従来の学生や教職員のみならず、地域住民、卒業生、さらには社会人といった多様な層に対して、いかに知的資源を提供していくかが問われている。今回の松図書の試みは、この「学内利用者限定」という制約の中で、いかにして図書館の価値を再定義し、その利用を促進していくかという問いへの、一つの模索であると捉えることができる。
特に注目すべきは、「夏の特別開館」という言葉に含まれる「特別」という修飾語だ。これは単なる開館時間の延長や特別なイベントを指すだけでなく、コロナ禍によって中断、あるいは縮小を余儀なくされた学内活動の「復活」と「深化」を象徴しているのかもしれない。対面での授業が再開され、学生たちがキャンパスに戻ってきた今、図書館は彼らにとって、単なる資料の借用場所ではなく、学友との交流や、新たな知見の発見、そして「学び直し」のための聖域としての役割を期待されている。
しかし、その期待の裏には、いくつかの課題も存在する。学内利用者限定という条件は、図書館のさらなる開かれた利用を志向する潮流とは逆行するかに見える。もちろん、大学図書館の主たる目的は、所属する学生・教職員の教育・研究活動への貢献であることは論を俟たない。だが、限られた資源の中で、誰に、どのようなサービスを提供するのかという優先順位付けは、図書館運営における永遠の課題と言える。
今回の松図書の取り組みが、学内利用者の満足度向上に留まらず、図書館のリソースを最大限に活用し、新たな学びの機会を創出する契機となることを期待したい。そして、この「夏の特別開館」が、将来的にはより広い層に向けた図書館の活用へと繋がるような、さらなる進化を遂げることを願うばかりである。図書館は、変化する社会のニーズに応えながら、その存在意義を問い直し続ける必要がある。松図書の小さな一歩が、その羅針盤となることを信じたい。
桂図書館、夏の特別開館のお知らせ（学内利用者向け）,京都大学図書館機構
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