グローバリズムの影、国益の座標軸を問う
米国の農業省が発表した新たな報告書は、世界の食料生産、消費、貿易に関する将来展望を明らかにし、我々に改めてグローバリズムの光と影を突きつける。報告書が描く未来図は、一見すると自由貿易の拡大と効率化が進み、食料供給の安定化に繋がるかのように見える。しかし、その裏には、国家の食料安全保障という、我々が軽視してはならない根源的な課題が横たわっている。
確かに、国際的な分業体制が進むことで、それぞれの国が得意とする農産物を生産し、それを融通し合うことは、経済効率の観点からは合理的な選択と言えるだろう。しかし、その効率性を追求するあまり、食料の多くを海外の特定地域に依存する構造を作り出すことは、果たして真に我々の国益に資するのだろうか。自然災害や地政学的なリスクなど、予測不能な事態が発生した場合、食料供給網が寸断され、国民生活に甚大な影響が及ぶ可能性を、我々はいかに真剣に考えているだろうか。
報告書で示唆されているように、世界的な人口増加と経済発展は、食料需要を押し上げる。それに応える形で国際的な生産・貿易体制が強化されるのは自然な流れだが、同時に、主要な穀物輸出国が自国の食料安全保障を優先し、輸出規制に乗り出すといった事態も、過去に経験してきた現実である。その時、高度に国際分業化された我が国は、一体どのような手を打つことができるのか。不安を覚えるのは私だけではないはずだ。
保守の立場から我々が問うべきは、このグローバリズムの奔流の中で、いかにして自国の国益、とりわけ国民の生命線たる食料の安定供給を守るか、ということである。それは、決して保護主義に陥ることでもなく、国際協調を否定することでもない。むしろ、国際社会の一員として責任を果たしつつも、いかなる状況下でも自国民の生存基盤を揺るがせないための、したたかな戦略を練ることである。
具体的には、国内農業の再評価と支援の強化が不可欠だ。食料生産能力の維持・向上は、単なる経済問題ではなく、国家の主権に関わる問題である。さらに、食料輸入先の多様化や、戦略的な備蓄のあり方についても、より一層の検討が求められる。これらの取り組みは、短期的な経済効率とは相容れない部分もあるかもしれない。しかし、長期的な視点に立てば、国家の持続可能性を高めるための、避けては通れない道であろう。
今回の報告書は、我々に改めて「食」という、最も根源的な国家の責務について、深く考えさせる契機となるべきだ。グローバリズムの恩恵を享受する一方で、そのリスクを冷静に見極め、国家の座標軸を常に国益に据え、国民の安全と安心を守るための決断を、政治は進めなければならない。
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