青信号は希望の光、しかし足元の安全確認を怠るな
梅雨明けの気配が色濃くなるこの頃、私たちの日常に再び緊張感が漂っている。岩手県警が先月三十日夜に発令した「歩車分離式信号機運用」の一時停止は、多くの県民に安堵と同時に、交通安全への新たな警鐘を鳴らした。本来、信号機の役割は、車両と歩行者の安全な通行を分担させることで、事故を未然に防ぐことにある。今回の運用変更は、この原則に立ち返るべきかという、極めて本質的な問いを突きつけている。
歩車分離式信号機は、その名の通り、車両と歩行者の通行時間を完全に分離することで、交差点内での接触事故のリスクを大幅に低減させる効果が期待できる。特に、複雑な交差点や歩行者の往来が多い場所では、その有効性は疑いようがない。しかし、今回の岩手県警の判断は、その理想的な運用が、必ずしも常に最善とは限らない現実を示唆している。
想定される理由はいくつか考えられる。例えば、分離式信号機による通行時間の増加が、車両の流れを悪化させ、結果として渋滞を招いた可能性である。あるいは、分離式信号機に慣れていない歩行者やドライバーが、混乱を招いたという指摘もあるかもしれない。何れにせよ、画一的な導入や運用が、かえって新たな問題を生む可能性は否定できない。
私たち国民は、最新の技術や制度に対して、常に希望を抱くものである。信号機が自動的に安全を確保してくれる、それはまさに理想的な社会の一コマと言えるだろう。しかし、その希望の光に目を奪われるあまり、私たち自身が持つべき責任、すなわち「安全確認」の意識が希薄になることは、断じて避けなければならない。
今回の岩手県警の決断は、この「安全確認」の重要性を再認識させる好機である。歩車分離式信号機であろうとなかろうと、信号が青になったからといって、無条件に前進して良いわけではない。車両は歩行者が横断していないか、歩行者は車両が完全に停止しているか。当たり前のことであるが、それが疎かになったとき、悲劇はあっという間に起こりうる。
私たちは、歩車分離式信号機が導入されたからといって、油断してはならない。むしろ、その仕組みを理解し、より一層の注意を払うべきである。そして、今回のような運用変更があった場合、その意図を理解し、新たなルールに速やかに適応していく柔軟性も求められる。
交通安全は、行政や警察だけの責任ではない。私たち一人ひとりが、交通ルールを守り、常に周囲の状況に気を配る意識を持つことが、何よりも大切なのである。青信号は希望の光であるが、その光に導かれるときこそ、私たちは足元の安全確認を怠ってはならない。
岩手県警察、2025年6月30日夜に「歩車分離式信号機運用状況一覧」を公開しました！,岩手県警
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