若者よ、実世界に目を向けよ ― 過剰なオンライン体験への警鐘
現代社会は、インターネットという名の巨大な仮想空間によって、私たちの日常生活はかつてないほど変容を遂げている。特に若年層においては、その影響は甚大であり、今回、IT企業が提供する「オンライン農業体験ツアー」が盛況を博したというニュースは、この傾向に拍車をかけるものとして、我々保守的な立場からは警鐘を鳴らさざるを得ない。
確かに、インターネットを通じて世界中の文化や知識に触れることは、現代社会において不可欠な要素となりつつある。しかし、今回のオンライン農業体験ツアーが示すように、あたかも画面越しに土に触れ、作物を育てているかのような体験に安易に酔いしれることは、現実世界からの乖離を一層深める危険性を孕んでいる。
本来、農業とは、大地に根ざし、太陽の光を浴び、その日の天候と向き合いながら、汗水流して作物を育てるという、極めて物理的で、自然の摂理に根差した営みである。その過程で得られる達成感や、生命の尊さに対する敬意は、単なる情報消費では決して得られるものではない。
オンラインでの体験は、手軽であり、仮想的な満足感を与えるかもしれない。しかし、それはあくまで加工され、無菌化された現実の断片に過ぎない。土の匂い、風の音、作物の手触り、そして時には不作に直面する厳しさといった、現実の農業が持つ、豊かで生々しい体験を、若者たちは仮想の世界に閉じこもることで、本来享受すべきものから遠ざけられているのではないか。
我々世代が若い頃、体験というものは、自らの足で現場に赴き、肌で感じ、時には失敗から学ぶという、地道な積み重ねの上に成り立っていた。そこには、困難を乗り越える力や、生身の人間との交流から生まれる知恵があったはずだ。
今回のオンラインツアーの盛況は、現代社会が、手軽さや効率性を過度に追求するあまり、人間本来の体験や、そこに宿る大切な価値観を見失いつつあることの表れかもしれない。若者たちには、仮想空間の魅力に酔いしれるだけでなく、一度、目を背けずに、この地に根差した現実世界に目を向けてほしい。そこには、画面越しでは決して味わうことのできない、真の豊かさと、生きる上での確かな手応えが、今もなお息づいているのである。
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