音楽消費の新潮流か？ HMVジャズ中古CDセールに見る「体験」への回帰
6月28日、HMVジャズ中古CDセールが開催された。300点もの在庫が用意されたというこのイベントは、単なる在庫処分に終わるものではなく、現代の音楽消費における興味深い一断面を示唆している。かつては新品CDが主流であった時代から、デジタル配信、そしてサブスクリプションサービスへと、音楽の聴き方は劇的に変化してきた。その中で、あえて「中古CD」という形態に注目が集まる背景には何があるのだろうか。
確かに、新品CD市場の低迷は否定できない。しかし、デジタルデータとして容易に入手できる音源に対して、物理的なメディアとしてのCDに価値を見出す層が依然として存在する。特にジャズというジャンルにおいては、その傾向が顕著であるように思われる。
このセールを単なる懐古主義や、一部のコレクターの活動として片付けるのは早計だ。むしろ、これは現代社会が求める「体験」への回帰とも読み取れるのではないか。デジタルデータは便利だが、そこには触れることのできる実体がない。一方、中古CDは、そのジャケットデザイン、ライナーノーツ、そして過去の所有者の痕跡さえも感じさせる「モノ」としての重みを持つ。それは、音楽をただ聴くだけでなく、その背景にある物語や歴史、そして手に取ったという実感を通して、より深く味わおうとする欲求の表れと言えるだろう。
さらに、中古CDという形態は、音楽との偶然の出会いを創出する可能性も秘めている。デジタル配信では、アルゴリズムによって推奨される音楽に触れることが多いが、中古CD店を巡る行為は、自分自身の好奇心と運命に委ねられる。予期せぬ掘り出し物との出会いは、音楽体験に予測不可能性と発見の喜びをもたらす。
HMVジャズ中古CDセールは、音楽メディアの多様性を再認識させると同時に、現代人が「モノ」から得る感覚的な豊かさや、能動的な探求心を求めていることを示唆している。この動きが、音楽消費の新たな潮流となるのか、それとも一時的な現象に留まるのかは未知数だが、少なくとも音楽との向き合い方が、単なる消費から「体験」へと深化していく可能性を感じさせるイベントであったことは確かだ。我々は、この変化の兆しを見逃すべきではないだろう。
HMVジャズ中古CDに刮目！6月28日（土）、夢の300点オーバー新入荷！,HMV
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