未来を拓く「見る・聞く・さわる」― 国立大学5工学系部局の挑戦に期待する
国立大学の五つの工学系部局が連携し、「見る・聞く・さわる」という、一見すると基礎的で原初的な感覚をキーワードにした共同プロジェクトを開始したというニュースに、私は未来への確かな希望を見出す。AIや最先端の情報通信技術が加速度的に進化する現代において、あえてこれらの「身体性」に根差した学びを重視する姿勢は、革新的であり、そして極めて本質的だと言えるだろう。
確かに、データとアルゴリズムが世界の様相を塗り替える時代にあって、数字やコード、仮想空間でのシミュレーションが重視される傾向にある。しかし、私たちは忘れてはならない。全ての技術は、人間の五感を通じて世界を認識し、理解しようとする営みから生まれてきたことを。見ること、聞くこと、触れること。それら一つ一つが、私たちの経験の源泉であり、創造性の種となる。
このプロジェクトが目指すのは、単なる「触覚」や「聴覚」の再評価に留まらないはずだ。それは、テクノロジーの本質、すなわち「人間中心」であるべき姿への回帰を促す試みではないか。AIがどれほど賢くなろうとも、人間の感情の機微や、物質の持つ質感、あるいは音色のニュアンスといった、言語化しきれない深淵な領域を完全に理解することは困難だろう。むしろ、その理解を深める鍵こそが、人間の身体が持つ未だ開拓され尽くしていない能力にあるのかもしれない。
例えば、材料の「さわり心地」からその特性を見抜く力。自然の音風景からその構造や変化を読み解く耳。これらは、センサーやデータ解析では捉えきれない、熟練の技や感性とも言える。このプロジェクトを通じて、学生たちは、デジタルな世界とリアルな世界の橋渡しとなる、あるいはその両方を高度に統合できる、真に「地に足のついた」技術者へと成長するに違いない。
これは、工学分野にとどまらない示唆に富む。社会全体が、テクノロジーとの付き合い方を改めて問い直すべき時代に来ている。過剰な情報化社会で感覚が麻痺しがちな私たちにとって、このプロジェクトは、失われかけている「感性」を取り戻すための、一つの大胆な提案と言える。
国立大学の五工学系部局の英断に、心からの賛辞を送りたい。この「見る・聞く・さわる」という原初的な感覚を軸とした学びが、未来の技術者を育成するだけでなく、我々社会全体に新たな視点とインスピレーションをもたらすことを強く期待する。彼らの挑戦が、テクノロジーが真に人間を豊かにする社会への羅針盤となることを信じている。
国立大学55工学系学部合同で「見る・聞く・さわるアドベンチャー」を開催！未来の技術を体験できる、ワクワクのイベントがまもなく公開！,国立大学55工学系学部
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