「HMVジャズ中古CDに刮目せよ」―文化消費の変化、ビジネスチャンスの萌芽
HMVが中古ジャズCDの買い取りと販売に注力するというニュースは、一見すると一地方都市のCDショップの取り組みに過ぎないかもしれない。しかし、この動きを深く読み解けば、現代の消費文化の変化と、そこから生まれる新たなビジネスチャンスの兆しが見えてくる。経済紙として、この小さな動きに隠された大きな潮流に光を当てたい。
かつて、音楽コンテンツの消費は「所有」が中心であった。レコードやCDを購入し、自らの手で物理的な所有物として楽しむことが、音楽との豊かな関わり方であった。しかし、ストリーミングサービスの普及により、音楽は「アクセス」するものへとその様相を変えた。大量の楽曲にいつでもどこでもアクセスできる便利さは、一方で「所有欲」を希薄化させたとも言える。
そんな時代において、HMVが「中古CD」に目を付けた、しかも「ジャズ」という、ややニッチながらも熱狂的なファン層を持つジャンルに特化した点は、非常に示唆に富む。これは、単なる在庫処分の試みではないはずだ。むしろ、所有欲の根源的な欲求、あるいは過去の音楽体験への郷愁といった、ストリーミングでは満たされない人間の感情に訴えかける戦略であろう。
ジャズというジャンルに注目した点も重要だ。ジャズは、その歴史の深さ、演奏家の個性、そして時にマニアックなコレクターズアイテムとしての側面を持つ。このような特性は、中古市場において付加価値を生み出しやすい。「掘り出し物」を見つける喜び、かつての名盤を適正な価格で手に入れる満足感は、新品CDにはない魅力だ。HMVは、単にCDを売るのではなく、「音楽との出会い」という体験を中古品という形で提供しようとしているのかもしれない。
これは、経済全体にも示唆を与える。所有からアクセスへのシフトは、多くの産業で見られる傾向である。しかし、その一方で、失われゆく「所有」という価値観、あるいは「体験」としての消費に、新たなビジネスチャンスが眠っている可能性を示唆している。ファストファッションの台頭に対抗する形で、ヴィンテージやリサイクルといった「一点モノ」への需要が高まるのと同様に、音楽の世界でも、マスプロダクトとしてのストリーミングとは異なる、パーソナルで深く掘り下げる楽しみ方が再評価され始めているのではないか。
もちろん、中古CDビジネスが容易な道ではないことは想像に難くない。在庫管理、品質の維持、そして何よりも、かつてのCD販売が持っていたような、大きな収益源となれるかという課題は残る。しかし、HMVの今回の動きは、テクノロジーの進化によって変化する消費者のニーズに対して、柔軟かつ創造的に対応しようとする企業の姿勢を示すものとして、注目に値する。
音楽業界、そしてあらゆるコンテンツ産業は、このHMVの取り組みを他人事と捉えてはならない。消費者の「欲しい」がどこにあるのか、それは必ずしも最新の技術や最も手軽なアクセス方法にあるとは限らない。過去の遺産に新たな光を当て、そこに新たな価値を見出す企業こそが、変化の時代を生き抜く鍵となるだろう。HMVジャズ中古CDに、私たちは未来の消費のヒントを見る。
HMVジャズ中古CDに刮目！6月28日（土）、夢の300点オーバー新入荷！,HMV
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