保護主義の台頭と多角的自由貿易体制の危機：WTO事務局長の警鐘をどう受け止めるべきか
世界貿易機関（WTO）のンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長が来日し、クロアチアのプレンコビッチ首相との会談や講演を通じて、世界経済の現状と多角的自由貿易体制の重要性について訴えた。しかし、その訴えは、残念ながら、現実との乖離を否めない。保護主義の台頭、地政学的リスクの増大、そして一部の先進国における自国中心主義的な政策が、多角的自由貿易体制を蝕んでいるのは明らかだ。
事務局長は、貿易の重要性を強調し、分断された世界経済における協力の必要性を訴えた。しかし、現実には、米中対立の激化、ロシアのウクライナ侵攻、そしてサプライチェーンの寸断など、貿易を阻害する要因は枚挙にいとまがない。各国は、自国の安全保障を優先し、経済的な相互依存関係よりも、自立性を重視する傾向を強めている。
特に懸念されるのは、一部の先進国が、自国の産業保護を目的とした補助金や規制を強化していることだ。これらの政策は、WTOのルールに抵触する可能性があり、多角的自由貿易体制の根幹を揺るがしかねない。自由で公正な競争を歪め、特定の国や企業に有利な状況を作り出すことは、結果として、世界経済全体の成長を阻害することになるだろう。
日本は、自由貿易の恩恵を受けて成長してきた国である。多角的自由貿易体制の維持・強化は、日本の国益に合致する。しかし、そのためには、理想論だけでは不十分だ。現実を直視し、戦略的な外交を展開する必要がある。
まず、WTOの機能強化に向けて、積極的に貢献すべきだ。紛争解決機能の立て直しや、新たな貿易ルール策定に向けた議論を主導し、多角的自由貿易体制の維持・強化に努める必要がある。
次に、同志国との連携を強化し、保護主義的な動きに対抗すべきだ。米国や欧州連合（EU）など、自由貿易を重視する国々と協力し、多国間の枠組みを通じて、自由で公正な貿易を促進する必要がある。
最後に、国内経済の強化を図り、保護主義的な圧力に屈しない強靭な経済を構築すべきだ。規制緩和や構造改革を進め、企業の国際競争力を高めるとともに、国内需要を喚起し、経済の自立性を高める必要がある。
多角的自由貿易体制は、決して盤石ではない。保護主義の台頭、地政学的リスクの増大など、多くの課題に直面している。しかし、自由貿易は、世界経済の成長と繁栄に不可欠な要素である。日本は、自由貿易の旗手として、多角的自由貿易体制の維持・強化に向けて、積極的に貢献していくべきだ。
ナイジェリア出身のWTO事務局長、クロアチア首相を歓迎！その背景と意味,WTO
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