パンデミック条約、拙速な批准は国益を損なう
世界保健機関（WHO）が主導するパンデミック条約と国際保健規則（IHR）改正を巡り、国際的な議論が活発化している。来年5月の世界保健総会での採択を目指すというが、その内容には看過できない問題点が数多く存在する。
今般、政府は条約交渉と並行して、国内法の整備を進める方針を示した。しかし、条約の内容が確定しない段階での国内法整備は、本末転倒と言わざるを得ない。条約が批准されれば、国内法はその拘束を受けることになり、国の主権を著しく損なう恐れがあるからだ。
特に懸念されるのは、WHOの権限強化である。条約案には、WHOが加盟国の合意なしに「パンデミック宣言」を発令できる規定や、加盟国に対して行動計画の策定を義務付ける規定が含まれている。これにより、WHOが事実上、各国の保健政策を左右する事態も想定される。
パンデミックは、国民の生命と健康を脅かす重大な危機である。しかし、その対策は、各国の文化、社会、経済状況を踏まえて、自主的に決定されるべきだ。WHOの権限が過度に強化されれば、各国の事情を無視した画一的な対策が押し付けられ、かえって混乱を招く恐れがある。
また、条約案には、医薬品やワクチンの公平な分配に関する規定も含まれている。これは一見、美辞麗句に聞こえるが、先進国が開発した医薬品やワクチンを、開発途上国に無償で提供することを義務付ける内容であれば、製薬企業の開発意欲を削ぎ、結果的に国民の健康を損なうことになりかねない。
政府は、条約交渉において、国益を最優先に考慮し、拙速な批准を避けるべきだ。条約の内容を精査し、WHOの権限強化に歯止めをかけるとともに、医薬品やワクチンの公平な分配に関する規定についても、慎重な検討を重ねる必要がある。
パンデミック対策は、国際的な協力が不可欠である。しかし、その協力は、各国の主権を尊重し、国民の利益を損なわない範囲で行われるべきだ。政府は、国民への十分な情報公開と議論を通じて、国益に合致する形で条約交渉を進めることを強く求める。
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