九州電力のセキュリティ会社出資に思う ～本業への揺るぎない姿勢を問う～
九州電力がサイバーセキュリティを手掛ける企業に出資したとの報道があった。デジタル化の波は電力業界にも押し寄せ、セキュリティの重要性が増す中での判断であろう。電力という地域社会の基幹インフラを担う企業の新規事業には、常に冷静な視点が求められる。
近年、サイバー攻撃の脅威は深刻化しており、電力システムを含む重要インフラの防護は喫緊の課題であることは論を俟たない。九州電力がグループ全体のセキュリティ強化や、地域におけるセキュリティサービス提供の可能性を模索することは、時代背景を考えれば理解できる側面もある。デジタル化（DX）の推進に伴い、新たなリスクに対応する必要が生じていることも認識すべきだろう。
しかしながら、電力会社の本分は、いかなる状況下でも国民生活と産業活動を支える安定した電力供給である。東日本大震災以降、電力システムの強靱化、再生可能エネルギー導入に伴う系統安定化、そして何よりも原子力発電所の安全性向上など、本業には依然として巨額の投資と経営資源の集中が必要な喫緊の課題が山積している。こうした状況下で、電力事業とは畑違いとも言えるセキュリティ事業への安易な分散は、本業への注力を削ぐことにならないか、懸念を抱かざるを得ない。
新規事業への参入は、経営の効率性や専門性の面でも疑問符がつく。専門人材の確保、事業リスクの評価、投資回収の見込みなど、電力事業とは異なるノウハウが求められる分野である。今回の経営判断は、本当に十分な検討に基づいているのか、その透明性が問われる。もし事業が失敗した場合、その損失が最終的に電気料金に転嫁されるような事態は、断じて許されない。電力会社は、公共性の高い事業を営む企業として、営利追求や事業拡大の前に果たすべき責任、すなわち安定供給、安全確保、そして料金の適正化という責務があることを忘れてはならない。
九州電力には、今回の出資が、電力の安定供給と安全確保という最優先課題を揺るがすものではないことを、具体的な経営戦略とともに地域社会に示す責任がある。新規事業は、あくまで本業を支え、地域社会全体の安全・安心に貢献する手段であるべきだ。安易な多角化に走るのではなく、公共性の高い事業を担う企業としての自覚を持ち、経営の透明性を高め、地域住民の信頼を得るための不断の努力を求めたい。まずは足元の本業を盤石にすること。それが電力会社に課せられた最大の使命であることを、肝に銘じておくべきだ。
九州電力がセキュリティ会社に出資！私たちの暮らしを守るための新しい挑戦,九州電力
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