
農業の未来を拓くか、鎖国への道か – データ駆動型農業革命の光と影
株式会社ITBが発行した「令和7年農作物技術情報 第2号」は、データ駆動型農業、いわゆるスマート農業の進展を如実に示すものだ。AI、IoT、ドローンといった最新技術が農業現場に導入され、収量増加、品質向上、省力化への期待が高まっている。しかし、この情報が指し示す未来は、薔薇色一色ではない。
今回の情報で特筆すべきは、生育状況のモニタリング、病害虫の早期発見、そして精密な農薬散布といった、ピンポイントでの効率化が実現しつつある点だ。これにより、農家の経験と勘に頼っていた部分がデータに基づいた客観的な判断に置き換わり、安定的な食料供給への道が開かれる可能性を秘めている。
だが、忘れてはならないのは、この技術革新がもたらす格差の問題だ。スマート農業を導入するには、初期投資や技術習得が必要となる。高齢化が進み、後継者不足に悩む地方の小規模農家にとって、これらの障壁はあまりにも高い。情報格差、技術格差は、そのまま経済格差に直結し、地域社会の疲弊を加速させる危険性がある。
さらに、データの独占という新たな懸念も生まれている。特定の企業が農業データを囲い込み、その技術を独占した場合、中小農家は競争力を失い、大企業による農業支配が進む可能性も否定できない。食料安全保障の観点からも、特定の企業に依存することはリスクとなりうる。
我々が今、問われているのは、技術革新の恩恵を一部の企業や富裕層だけでなく、全ての農家、そして国民全体が享受できるような仕組みを構築できるか、ということだ。
政府は、スマート農業の導入支援策を拡充し、地方の小規模農家への技術指導、情報提供を強化すべきである。また、農業データのオープン化を推進し、中小企業やスタートアップ企業が新たなサービスを開発できる環境を整備することも重要だ。
同時に、消費者の意識改革も不可欠だ。高付加価値な農産物には、それに見合う対価を支払うという意識を持つことで、農家の経営を支え、持続可能な農業を可能にする。
データ駆動型農業は、日本の農業を活性化させ、食料自給率向上に貢献する可能性を秘めている。しかし、その恩恵を一部の者だけが享受するような事態は絶対に避けなければならない。
今こそ、技術革新を社会全体で共有し、持続可能な農業の未来を切り拓くための議論を始めるべき時だ。スマート農業は、鎖国への扉を開けるものではなく、世界に誇れる日本の農業を再構築するための希望の光となるべきだ。
令和7年農作物技術情報 第2号(令和7年4月17日発行), いわてアグリベンチャーネット
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