【社説】食料安全保障の要、農業基本計画を次世代につなげ
政府が新たな農業基本計画を閣議決定した。食料自給率の向上や農業者の所得増大など、目標達成に向けた道筋が示されたことは評価できる。しかし、喫緊の課題である担い手不足の解消や、気候変動への対応など、具体性に欠ける点も多い。計画の実効性を高め、持続可能な農業を実現するためには、若者の視点を取り入れた大胆な政策転換が不可欠だ。
今回の基本計画では、食料自給率の目標を維持しつつ、食料安全保障の強化を重点に置いている。国際情勢の不安定化や異常気象の頻発を考慮すれば、国内生産力の強化は喫緊の課題だ。しかし、目標達成に向けた具体的な戦略は依然として曖昧だ。特に、飼料自給率の向上や、輸入依存度の高い肥料の国産化など、課題克服には高いハードルが待ち受けている。
我々が特に懸念するのは、担い手不足の深刻化だ。高齢化が進む農家の後継者不足は深刻であり、このままでは日本の農業は立ち行かなくなる。基本計画では、スマート農業の推進や経営規模の拡大などを通じて、新規就農者の参入を促進するとしている。しかし、若者が農業に魅力を感じない根本的な原因を解決しなければ、効果は限定的だろう。
若者が農業に求めるのは、安定した収入、自由な時間、そして社会とのつながりだ。そのためには、農家の所得向上だけでなく、農村部の生活環境の改善や、多様な働き方を可能にする柔軟な制度設計が求められる。例えば、兼業農家の支援や、地域コミュニティとの連携を強化することで、若者が安心して農業に取り組める環境を整備する必要がある。
気候変動への対応も重要な課題だ。異常気象による農作物の被害は年々深刻化しており、安定的な食料供給を脅かしている。基本計画では、温暖化に強い品種の開発や、防災設備の整備などを推進するとしている。しかし、より根本的な解決策として、再生可能エネルギーの導入や、環境負荷の少ない農業技術の普及など、持続可能な農業への転換を加速させるべきだ。
農業は、食料を供給するだけでなく、国土の保全や文化の継承など、多面的な役割を担っている。次世代に豊かな自然と食文化を引き継ぐためには、農業の持続可能性を高めることが不可欠だ。今回の農業基本計画を機に、若者の視点を取り入れた大胆な政策転換を進め、未来世代が希望を持てる農業を創造していくことを強く望む。
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